2019/12/29(更新日: 2019/12/29)
WBSSバンタム級トーナメント優勝後、周辺階級の選手から挑発を繰り返される井上尚弥選手。
現在、世界のバンタム級周辺階級は井上選手を中心に回っています。
“モンスター”井上尚弥と試合をしたいがために、各選手が挑発含めてアピールを繰り返しています。
その中で多いのが、
「井上尚弥のディフェンスには穴が多い」
という発言です。
おそらくドネア戦で打たれたシーンが目立ったからでしょう。
そもそも今まで井上選手はほとんどパンチをもらわず、綺麗な顔で試合を終わらせるのが普通だったため、被弾しパンチを効かされた姿を見るのは初めてでした。
そこで今回は、本当に井上選手のディフェンスに穴があるのかデータ分析していきたいと思います。
2R左フックによる右眼のカット及び眼窩底骨折の影響があったため、普段の状況とは違いますが、井上選手がドネアに押された7,8,9ラウンドをピックアップして分析していきたいと思います。
ドネアとの7〜9R 初めて効かされた井上尚弥
まず初めに井上VSドネアの7〜9Rは、ジャッジが3者ともドネアの10-9をつけており、明らかに押されたラウンドとなりました。
特に9Rは衝撃的で井上選手がドネアの右ストレートをカウンターで貰い、あのモンスターが自らクリンチをするというシーンもありました。
井上選手、本人も「7〜9Rは少し捨てた。」と言っており、そこで温存していたことが、10〜12Rの攻勢、11Rのダウンシーンに繋がったのですが、押し込まれパンチを貰ったことは事実です。
それでは各ラウンドを見ていきましょう。
7R
【井上尚弥】が受けたパンチデータ(ノニト・ドネアのパンチデータ)


パンチ数 | ヒット数(被弾) | ヒット率(被弾率) | |
左ジャブ | 36 | 3 | 8% |
右ストレート | 10 | 3 | 30% |
左フック | 3 | 0 | 0% |
右フック | 0 | 0 | 0% |
左ボディ | 4 | 1 | 25% |
右ボディ | 2 | 1 | 50% |
左アッパー | 0 | 0 | 0% |
右アッパー | 0 | 0 | 0% |
全パンチ | 55 | 8 | 15% |
7Rにドネアの放ったパンチは55発その内、井上選手が受けたパンチは8発です。
被弾率(ヒット率)は15%。
パンチの内訳を見ると左ジャブが36発と最も多いですが、被弾は3発とほぼ貰っていません。
試合を大きく左右するジャブの差し合いでは完勝です。
パーリングのディフェンス技術は抜群で右手の無駄な動きも少ないです。
気になったシーンはドネアの連打の前にまっすぐ下がったシーンでしょうか。
8R
【井上尚弥】が受けたパンチデータ(ノニト・ドネアのパンチデータ)


パンチ数 | ヒット数(被弾) | ヒット率(被弾率) | |
左ジャブ | 30 | 5 | 17% |
右ストレート | 14 | 8 | 57% |
左フック | 5 | 0 | 0% |
右フック | 1 | 1 | 100% |
左ボディ | 1 | 1 | 100% |
右ボディ | 6 | 4 | 67% |
左アッパー | 4 | 1 | 25% |
右アッパー | 0 | 0 | 0% |
全パンチ | 61 | 20 | 33% |
8Rにドネアの放ったパンチは61発その内、井上選手が受けたパンチは20発です。
被弾率(ヒット率)は33%。
実はグラつかされた9Rより多くのパンチを貰っています。
特に右ストレートは14発中8発被弾率57%とかなり貰ってます。
序盤に左ジャブに対するカウンターで右ストレートをクリーンヒットさせられています。
タイミングを盗まれたのか、このパンチは9Rにも貰い、大きく試合が動くことになりました。
ディフェンス力の有無というよりは、右眼をかばったことにより右ストレートが出せなかったこと、それにより距離を外してのジャブの展開が多かったことが、タイミングを盗まれた要因かなと思います。
9R
【井上尚弥】が受けたパンチデータ(ノニト・ドネアのパンチデータ)


井上尚弥が初めて効かされたラウンドです。
9Rにドネアの放ったパンチは50発その内、井上選手が受けたパンチは11発です。
被弾率は22%。
印象とは裏腹に意外にも8Rよりもパンチを貰っていません。
それは、パンチを貰った後の対応にあります。
前回のラウンドに受けた左ジャブに対する右ストレートのカウンターをまともに貰ってしまい、腰が落ちるシーンがありました。
このシーンは印象的で、おそらく井上選手がプロに入って初めてパンチを効かされたシーンです。
しかし、その後の対応が素晴らしかったです。
即座にクリンチし、危機を回避、その後は余力があることを匂わすようにグローブを叩きアピール。
ドネアを攻め込ませません。
後に、ドネア本人も
「9Rに攻め込まなかったのはミスだった。」
と語っているように、上手く対応しました。
パンチを効かされた後、無理に打ち合ってしまうボクサーは非常に多いです。
しかし、井上選手は回復に専念し、立て直すことに成功しました。
データで見るとパンチもそれほど貰ってませんし、井上選手の打たれ強さ、ボクシングIQの高さを示すラウンドとなりました。
井上尚弥のディフェンスの特性、被弾した要因
結論からいうと井上尚弥選手のディフェンス能力はかなり高いです。
しかし、ドネア戦でパンチを貰ってしまったのはその特性にあります。
井上選手のディフェンスの特性は、
・抜群の距離感
・相手を把握する観察力
・観察力からくる正確な予測
であると私は思います。
これらの能力が右眼のカット、眼窩底骨折によって乱れてしまったのが大きな要因です。
しかし、その対策として、より足を使って距離をとる、右眼をカバーするなど突然のアクシデントに対する対策はバッチリでした。
頼りにしているものが失われた時、普通の人間はパニックに陥ってしまいます。
しかし、井上選手は冷静に残った能力で対応しました。
この対応力も井上選手の凄さです。
井上尚弥のディフェンスの弱点
井上選手のディフェンス能力は非常に高いです。
それを踏まえた上で井上選手のディフェンスの弱点を挙げるとするならば、
・スウェーでの見切りに少し怖さがある。距離感、読みに優れる井上選手ならでは。だが、読み違えたらアウトか。
・体幹をしっかり作って打つため、破壊力抜群だが、頭が動かないためターゲットが絞りやすい。
・打ち終わりの際に隙がある。特に左フックをフルパワーで振り抜く時は、バランスを崩す時も。
・連打に対してまっすぐ下がりすぎることがある。
私が思うにはこの4つでしょうか。
特に打ち終わりに隙があることはよく指摘されますが、井上選手が相手を把握した上で放っている節があるので、弱点とは言い切れないところがあります。
ドネアとの7〜9Rを総括すると、パンチは166発その内、井上選手が受けたパンチは39発、被弾率は23%。
2Rのアクシデントがあってこのスタッツは上出来だと思います。
井上選手はドネアとの試合で底が見えたとの発言もありますが、私はさらに底がしれないと感じました。
この試合を通じて、ディフェンスの改善も行われ、さらなるパワーアップがあることを考えると末恐ろしいです。
果たして、井上選手のディフェンスを崩す選手が出てくるのか!?
今後の試合にも眼が離せませんね。
最後までありがとうございました、それでは。
*パンチ数、種類は独自に手動で計測したものです。肉眼での計測のため、正確なものとは限りませんので、ご了承下さい。